水之江 水野夫妻

 JR横浜線大口駅前に水之江という喫茶店がある。随分昔からあったのだろう。そこのマスター「水野」は、私の小学校の同級生だ。一緒に野球をやったのはもちろんだが、水野は近所では珍しい豪邸に住んでいた。延々と続く廊下で、スーパーカー消しゴムを走らせて遊んだのをよく憶えている。
 小学生も、高学年になるとだんだんグレてくる。私は公立の中学校にすすみ、水野は私立の中学校にすすむが、彼はかなりのもんだったらしい。水野も良い体をしており、やんちゃをした。

 小学校を卒業して以来、水野と顔を合わせる機会はあまり無かったが、私は数年前から、ひょうんなことで水之江に顔を出すようになる。ただ、見知らぬ人たちとカウンターを囲んで和気藹々といったスナック的なノリをあまり好まないので、客があまりいない時間に、時々コーヒーを飲みに行く程度だ。
 ワルかった少年も、今では人のいいマスターとなり、若い奥さんと大口界隈のひとびとに、憩いの場所を提供している。