サトウ商会 佐藤夫妻

 「頑固オヤジ」といえば、地元で有名なサトウのおじさんだ。
 親と一緒に自転車を買いに行くと、「自転車ばかり乗り回して勉強がおろそかになるようだったら、いつでも自転車を引き取りますから」と、ノートと鉛筆をおまけしてくれる手厳しいおじさんだ。実際は、自転車を乗り回し、高校を中退したが、自転車を取り上げられることはなかった。パンクして修理をお願いするときでも、乗り方を指導される。私は、どんなに厳しいことをいわれても、おじさんのところへ自転車を持って行った。
 中学生のころだと思ったが、横浜の自宅から、小田原城まで、自転車で何時間でいけるのか試してみようと、出発前、おじさんに電話した。二時間二十分後、小田原城の前の公衆電話から再びおじさんに電話した。このときは厳しいことを言われなかった。この写真を撮るとき、「お前、小田原まで行ったときは速かったなあ」二十年以上も前のことを明確に憶えていてくれた。
 奥さんは未だに元気だが、おじさんは体調を崩し、店を開けられない日が多くなっている。「引退」という言葉を知らないおじさんは、今日もがんばっている。