サエコ・マジックカプチーノ改
「さえ子さん」

 30歳代に入るとブクブク太りだし、ハッキリと憶えているのは、9.11同時爆破テロが起こった日、デブ真っ盛りで32インチのジーパンを買いにいった。

 ピーク時には86kgあった体重は納豆かけご飯、インスタントラーメン、野菜炒め、これらを繰り返し食べていたら、一気に体調を壊した、一年足らずで70kgを下回った。もはや「無敵の男・飯塚隆行」では無くなっていた。ちょっと脂っこいものを食べると、強烈な吐き気を催すようになり、食事をすることに恐怖感を憶えた。また、大好きだった浅煎りのコーヒーも、体が受け付けなくなってしまった。

 浅煎りのコーヒー豆を、ややぬるめのお湯でドリップした強烈にカフェインの刺激があるコーヒーを好んでいたが、これを夕方以降は飲まないようにし、比較的胃に優しいエスプレッソを飲むようにした。「こりゃあ、もう永いこと無いな」と思った。何度、大×総合病院で検査をしても、どうにもならなかった。ここで思いついたのは、カプチーノだ。手持ちのエスプレッソマシーンでカプチーノをつくるのは難しく、簡単にカプチーノがつくれるサエコ・マジックカプチーノを手に入れる。しかし、こいつはエスプレッソを抽出し終わってもクレマ(コーヒーが泡状になったもの)を発生させる仕掛けが邪魔をしてフォルダー内に残るコーヒー豆がびしょびしょになってしまう。
 保証期間内であったが、その装置を取り外し、すんなりエスプレッソが抽出されるように加工した。

 カプチーノの効果もむなしく、更に痩せ続け、ある夏の日扇風機を長い間見つめていた。扇風機は、見つめられて照れているかのように首を振り、視線をそらし続けている。何ともかわいらしいじゃないか。ふと思いつき、扇風機に腕を付けてみた。これはイマイチであった。また、ふと思った。エスプレッソマシーンを見ていると「Saeco(サエコ)?」「えっ、冴子、小枝子?」

 首と腕を付けて「さえこさん」にした。これはフランス人に受けた。

 その後、病院を変え、投薬と食事の改善で、体調は良くなり、2006年、「新・無敵の男、飯塚隆行」を目指すのであった。

 2006年1月27日

私的作品