西日は、ポスターの女性が右手に持ったジョッキから、胸元を通って左の腕を繰り返し照 らしている。催眠術に使われる金時計のように、ゆらゆら、ゆらゆら。 坂本の頭は、ほおづえを着いている右腕に預けられ、左手に持ったグラスは、カウンター から持ちあげられなくなる。 やがて心地よくまぶたを閉じた。 空が灰色から藍色に変わってゆく頃、坂本は古ぼけた小型トラックに乗り込み、両側を雑 木林に覆われ、すれ違う車もまばらな坂道を走っていた。ほとんど左右に曲がりくねること もなく、見えるのは雑木林と坂の頂上まで続く少し痛んだアスファルトの道くらいだ。坂の 頂上に到着するとまた次の頂上が正面に見えてくる。そんな退屈な道をしばらく走っている と、雑木林のとぎれたあたりに白い木造の建物を見つけた。 喫茶店だろうか。 トラックが建物に近づき、白いペンキで塗られた板張りの壁に数枚ある大きいガラス窓 から、なにやら商品が陳列されている様が見えた。 |
目次. 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26. |
-10-
次のページへ>