「えー・・・・・ビールと・・・・んー・・」 あまりこういった店に出入りしない坂本には、幾つもあるの品数から、一つ二つビールの 肴を選ぶという行為が得意ではなかった。 ビールと来れば、枝豆か。いや、そう単純に大して食べたいものを注文するのもいかがな ものか。夏でもあるまいし。焼き魚なんかどうだろう。まだ食事をしたいわけでもないし、 南京豆でももらおうか・・・・・・ こうして、単純なことを複雑に考えてしまい、繰り返 し品書きを右へ左へ目を動かし続け、三往復しようとしたところで、 「おつけものはいかが?」カウンター越しから女将の声がかかる。 「それでいこう」苦難から解放された坂本は、自然に笑みを浮かべる。 それにつられて女将も笑みを返す。 女将が坂本にコップを手渡し、「ハイどうぞ」と、酌をする。 坂本の絵の具の着いた指先を見つめ、 「お客さん、ペンキ屋さん?」 「えっ?」 「ペンキが付いているから」 坂本は、自分の指先を見ながら、 |
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