射陽 - 第一章 黄色いさくらんぼ -
「やあ、おはよう。」
「おはようございます」
 野村が、恥ずかしそうに下を向いている新入社員を、謙二郎と島野に紹介する。
「まあ、以前から話はしていたが、亮子が生意気にも嫁に行くもんで、今日から事務をやっ
てもらう緒方登美子君だ。高校を卒業したばかりで、わからないことも色々あってとまどう
かもしれないが、よろしく頼む。そうそう、そろばんが得意なんでだそうで、後々燃焼室の
容積や、点火タイミングの計算をやってもらうのも良いかもしれんな。さあ、緒方君、自己
紹介しなさい。」
 野村は、緒方登美子の肩をポンとたたき、自己紹介させた。
「今日からお世話になります。緒方登美子です。・・・・よろしくお願いいたします。」
 登美子は、顔を上げられないまま簡単な自己紹介をした。
「死んだはずだよお富さん?」島野が茶化すように歌い、みなが一斉にゲラゲラと笑い出し
た。
 野村は、亮子にお茶を入れるよう、手振りで指示し、亮子は登美子を伴って、給仕場の方
へお茶の支度に向かった。そんな二人の後ろ姿を見ながら、
「お富さんじゃあんまりだから、トミちゃんくらいにしてやれよ」そう野村が言うと、その
時から緒方登美子は、トミちゃんと呼ばれるようになった。
目次.
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