思い出した。 電話機の何とも言えない後ろ姿に見とれている坂本の前に、カウンター越しに割烹着の袖 から出た白く、か細い腕に乗せられて小鉢が差し出される。 「はい、おつけもの」 女将から小鉢を受け取り、白菜の浅漬けを箸でつまみ、 「んー。旨そうだ」すぐに口に運ばず、もったいぶるように少し観察するふりをして、坂本 は漬け物を噛みしめた。「ボリボリ」 「スーパーで売っている奴はあっさりしすぎているが、こいつはなかなかいけるね。」 女将は木綿の白いふきんで両手を拭きながら笑みを浮かべ、 「まあ、うれしいこと。でもね、向かいのコンビニで買ってきたのよ」 坂本の箸が止まり、店の入り口方向へ振り返り、通りの向かいにあるコンビニエンススト アーに目をやった。 「・・・・」 一呼吸おき、ゆっくりと正面をむき直した坂本に、 「ウソよ」と、女将が笑みを浮かべて言った。 ニコッとした女将に、坂本は本題を切り出す。 |
目次. 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26. |
-7-
次のページへ>