射陽 - 第一章 黄色いさくらんぼ -
思い出した。

 電話機の何とも言えない後ろ姿に見とれている坂本の前に、カウンター越しに割烹着の袖
から出た白く、か細い腕に乗せられて小鉢が差し出される。
「はい、おつけもの」
 女将から小鉢を受け取り、白菜の浅漬けを箸でつまみ、
「んー。旨そうだ」すぐに口に運ばず、もったいぶるように少し観察するふりをして、坂本
は漬け物を噛みしめた。「ボリボリ」
「スーパーで売っている奴はあっさりしすぎているが、こいつはなかなかいけるね。」
 女将は木綿の白いふきんで両手を拭きながら笑みを浮かべ、
「まあ、うれしいこと。でもね、向かいのコンビニで買ってきたのよ」
 坂本の箸が止まり、店の入り口方向へ振り返り、通りの向かいにあるコンビニエンススト
アーに目をやった。
「・・・・」
 一呼吸おき、ゆっくりと正面をむき直した坂本に、
「ウソよ」と、女将が笑みを浮かべて言った。
ニコッとした女将に、坂本は本題を切り出す。
目次.
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