すっかり陽の落ちた街を、坂本は少し寒くなった風に背中を丸められ、駅に向かう。
鞄の取っ手に手首を通し、両手をズボンのポケットに突っ込み、歩きながら考えた。 『妙な夢だった。あの子の名前は何というのだったか。』細かいことが思い出せず、釈然と しなかった。駅に着き、電車の中でもずっと夢の中の出来事を思い出そうとしていた。 自宅近くの駅で電車を降りると、夢の中でエスプレッソを飲み損ねたことを思い出し、駅前 の喫茶店でエスプレッソを注文した。 カウンタ席に座り、まもなく、デミタスカップに注がれたエスプレッソがでてくる。 坂本は、デミタスカップに浮かんだ褐色のクレマを見つめながら、夢の中で見た様々な光 景を思い出していた。 カップに手を運ぶと、シュガーポットが目に入る。そこには黄色い玉の飾りが付いたスプー ンの柄がフタの切りかきから顔を覗かせている。 それを見た坂本は、『黄色いさくらんぼ』を思い出し、小さな声で歌った。 「わっかい娘が、」 すぐそばにいたマスターが、 「クラシックだねえ、坂本さん」 2006年6月27日 〜第二章へつづく・・・・ |
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