店のとなりには車が一台か二台入りそうな場所があることを確認し、坂本はそこへ車を駐 めた。その建物が、何屋なのかわからないまま車から降り、木の格子で組まれたドアの前に 立ち、ガラス越しに店の中を伺う。そこには、いろんな本が表紙を見せるように並べられて いた。 本屋か。ちょうど良い。地図でも見てみよう。 坂本は、真鍮のドアノブをひねり、店の中へ入った。 床、天井、壁、全てが明るい色の板張りであった。入り口の正面、一間幅くらいの陳列棚 に、見覚えのある本を見つける。数年前、坂本が表紙絵を描いた児童書だった。手に取ろう とした時、そのとなりにある本も、自分が表紙を手がけた本であることに気づいた。更に目 を移すと、この陳列棚にのっている十冊ほどの本は、全て坂本が表紙や挿絵を手がけた本で あった。 坂本は、自分が手がけた本を書店で見かける機会があまり無いので、良い気分になる。 ひょっとして、まだあるのか、他の陳列棚に目を移そうとしていたら、たった一人しかいな い店員と目が合う。なかなか美人の店員であった。両手にエスプレッソコーヒーが入ったデ ミタスカップを持ち、 |
目次. 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26. |
-11-
次のページへ>