ホプキンスが帰国した後も、駐留する米軍兵の間で野村の評判は知れ渡り、この日も、飛 行場でレースまがいの遊びをする米軍兵たちからオートバイを預けられていた。 このころ、幹線道路でもまだまだ未舗装の道が多く、転倒して修理を待つ商店や工場のオー トバイが何台も野村モーターで修理を待っていたが、米軍兵のお遊びオートバイもそれらと 一緒に預けられていた。 本来であれば、仕事で使っているオートバイを優先して修理するべきであったが、米軍兵 は週末に飛行場で走らせるため、急いで作業をして欲しいと、代金前払いでオートバイを置 いていってしまった。困った野村は、他の客への体裁を考え、自分は店先の作業場で近所の 客のオートバイを修理し、裏の倉庫で、島野に日本製のオートバイを大柄なアメリカ人が乗 りやすいようにステップやペダルの改造をさせ、謙二郎にエンジンの組み立てをやらせてい た。 ピストンを手に持ち、リング溝の角を手作業で面取りしていた謙二郎は、ピストンを作業 台の上に置き、首をほぐすように数回頭を回すとポツリと言った。 「こんなに細かいところまで手を入れてやっても、どうせあのへたくそが扱うんじゃ、すぐ に焼き付かすんだろうなあ」 うなだれている謙二郎に、その背後で図面を見ながら車体の改造部品を削っている島野が |
目次. 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26. |
-20-
次のページへ>