そこは、居酒屋のカウンターだった。
「夢か・・」坂本は我に戻り、自分は前田謙二郎ではなく、坂本昭二であることを思い出
し、うつろな目であちこちを見回し考え込んでいると、すぐ横にいたマー坊と目が合った。
「なあ、坊や。おじさんはどのくらい寝ていたかい」
「んん・・、わかんない」
カウンターの向こうにいた女将が答えた。
「寝ていたっていっても、少し、うとうとしていただけでしょ」
「・・・そ、そうか」
坂本は、わずかな時間とはいえ、酔って眠ってしまったことを気まずく思った。
「ちょっと飲み過ぎたかな。帰って仕事の続きでもするか」
そう言い立ち上がった。
「ごちそうさま。なかなかうまい漬け物だったよ」
「またいらしてね」
勘定を済ませているとき、レジのとなりにある笊に入った店のマッチが目に入ると一つ手 に取りズボンのポケットに入れた。
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