射陽 - 第一章 黄色いさくらんぼ -
図面をにらみながら言った。
「あれで、正義の味方のつもりでいるんだからなあ、学生さんたちも暴れるわなあ」

 二人が、うまく噛み合ったような噛み合わなかったような会話をしているところで、事務
所側の扉がガラガラと開き、
「お茶が入りました」恥ずかしそうな、か細い声がした。
登美子が湯飲みをのせた盆を持って二人が作業している倉庫に入ってくると、その後ろから
野村も入ってくる。
「どんな感じだ」
 野村は謙二郎が加工していたピストンの溝を指の腹で一回り触り、作業台に置いてあった
ナイフで手直しした。
「トミちゃん。こいつらがやっている作業は、地味だけど、こういう作業をすることで、
本来の性能を発揮できるオートバイに仕上がるんだ。料理で言うところの隠し味ってところ
かねえ」
登美子は、きょとんとして聞いていた。
「はあ」
盆の上から湯飲みを手に取り、謙二郎が言った。
目次.
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