野村は、ラジオのスイッチを入れ、大声で、 「おーい。奥の二人、メシにしろや」 「ヘーイ」 「ロ〜イド、め〜が〜ね〜に、燕尾服?」 謙二郎が鼻歌を歌いながら事務所を通り昼飯のパンを買いに出ようとしているところへ、腰 に手をやり、背筋を伸ばしている野村が声をかけた。 「おい鶴田浩二、パン屋に行くんだったらタバコを買ってきてくれ」 「へい」謙二郎は小銭を受け取り、買い物に出て行った。 そんな謙二郎の後ろ姿を見ながら、野村が呟く。 「クラシックだねえ。あいつは・・」 近くでお茶の用意をしていた登美子が訪ねた。 「前田さんは、鶴田浩二が好きなんですか」 登美子が入れてきた茶をすすり、野村が、 「なんだかねえ。こないだは、灰田勝彦を歌ってたぞ」 奥にいた亮子が弁当をもってやってきた。 「あれでトミちゃんと同じくらいの妹がいるのよ」 「へえ。そうですか」 |
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