射陽 - 第一章 黄色いさくらんぼ -
 今回取り掛かっているのは、児童書の表紙と8場面の挿絵である。
 昭和二十五年、電話機の普及を目的に世界に誇れる高性能電話機として、各企業が共同で
開発した四号電話機「クロちゃん」が東京の工場で生まれ、電話局から商店や町工場に貸し
出されては電話局に戻り再生され、また貸し出しを幾度も繰り返し、最終的には電話職人の
おじさんに手直しされ、骨董品として一人暮らしの老人の家で電話機の生涯を終えるという
物語だ。
 書き出しはこんな感じである。

 国と国とのケンカが終わり、しばらくたったころ、とおくはなれた人と人がお話しするた
め、声がハッキリ聞こえる電話機が必要になった。 
電話機にくわしい人々が集まって、海の近くの工場で、黒くて丸い電話機がたくさん作られ
た。その中の一台にクロちゃんという電話機がいた。クロちゃんは、はこの中に入り、仲間
たちといっしょに自分の出番をじっと待っていた。
 坂本は原稿を読みながら、挿絵を入れる場面を確認していく。 
 物語が後半に入ったあたり、次々と登場してくる新型電話機に仕事を奪われ、もはや旧式
となってしまったクロちゃんが、大正生まれの三号電話機に骨董品としての道を教えられる
シーンが出てきた。
目次.
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