居間では、末っ子の伸子が配膳を終えようとしていた。 「お兄さん。おはよう」 「おはよう」 ミチがみそ汁の鍋を、台所から持ってくる。 「さ、食べましょう」三人の朝食が始まった。ミチが炊きたての米をそれぞれの茶碗によそ りながら、 「伸子も今日から三年生ね」 ミチから茶碗を渡され、味噌汁をよそっている伸子に謙二郎が言った。 「伸子のセーラー服もあと一年で見納めか」 そう言われ、まんざらでも無さそうな伸子は、 「黄色いサクランボも、赤くなるのよ」 三人の朝食が終わり、伸子はミチの片付けを手伝い、学校へ向かった。謙二郎は、部屋へ 戻り、作業服に着替える。もはや、自分が坂本昭二であるということを完全に忘れ、自転車 にまたがり、勤め先の野村モーターに向かうのだった。 「わっかい娘が、うっふん。」 謙二郎は「黄色いさくらんぼ」を口ずさみながら自転車を漕ぎ、野村モーターへ急いだ。 |
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