射陽 - 第一章 黄色いさくらんぼ -

登美子は、街のサンドイッチマンを口ずさむ実の兄の姿を思い浮かべると、急に恥ずかしく
なり顔を赤らめた。

 数分後、謙二郎は買い物から戻り、野村にタバコと釣り銭を渡すとパンと牛乳を持って、
土手を上り、桜の木の下で垂れ下がるように咲いている桜の花を見ながらパンにかじりつく。
 目の前の川では、舞い落ちた無数の桜の花びらが川面に浮かび、ゆっくりと流れている。
そんな春の光景に目を移しパンを食べ終え、あたりに広がる風景を目に焼き付けるかのよう
に目を閉じ、寝そべっていたら、土手を登ってくる人の気配を感じた。
「きれいですねえ」土手を登ってきた登美子が、桜の木を見上げてそう呟き、木の根本あた
りにしゃがんで、落ちた花びらをつまんで拾い上げていた。
 昼寝をしようとしていた謙二郎は、薄目を開け、満開の桜の木の下で桜の花びらと遊んで
いる登美子が、とても美しく見えた。
「ああ、きれいだ」そう言い、謙二郎は再び目を閉じ、その美しい光景も目に焼き付け、
満開の桜の木の下で昼寝を楽しんだ。

 ・・・・・つもりが、
 ハッとして、目を覚ます。ぼんやり黒電話が見えてきた。

目次.
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