杉野は、袋に入った弁当をオートバイのハンドルに引っかけ、エンジンを始動させるが、 キックを三回踏んだとき「パーン!」と大きな音がした。 店の中にいた店員たちは、びっくりして全員がオートバイの方を見る。 杉野はオートバイから降り、インシュレーターからキャブレターが外れたのを確認し、車 載工具で修理を試みるが手こずっていた。 弁当を待つ客もとぎれ、店員たちは一息付いていたが、店の前でオートバイと格闘してい る杉野を見かねた店員が、由希子に言った。 「ユッコちゃん。オートバイ屋の娘がなんとかしてあげられないの。ちょっと見てきたら」 そう言われ、由希子がオートバイと格闘している杉野のそばにゆき、 「ご機嫌斜めみたいですね」 オートバイの横にしゃがみ込んでいる大柄の杉野を見下ろすと、肩のあたりに随分筋肉が付 いている様子が良くわかった。普段のスーツ姿では、気が付かないところだ。 杉野は、力任せにキャブレターを押し込むと、手を止め、 「どういう訳だか、しょっちゅうこんな感じでね」 しゃがんだまま顔を上げ、ニコッと笑顔で答えた。 |
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