射陽 - 第二章 悲しいキャッチボール -
 杉野は、袋に入った弁当をオートバイのハンドルに引っかけ、エンジンを始動させるが、
キックを三回踏んだとき「パーン!」と大きな音がした。
 店の中にいた店員たちは、びっくりして全員がオートバイの方を見る。
 杉野はオートバイから降り、インシュレーターからキャブレターが外れたのを確認し、車
載工具で修理を試みるが手こずっていた。

 弁当を待つ客もとぎれ、店員たちは一息付いていたが、店の前でオートバイと格闘してい
る杉野を見かねた店員が、由希子に言った。
「ユッコちゃん。オートバイ屋の娘がなんとかしてあげられないの。ちょっと見てきたら」
 そう言われ、由希子がオートバイと格闘している杉野のそばにゆき、
「ご機嫌斜めみたいですね」
オートバイの横にしゃがみ込んでいる大柄の杉野を見下ろすと、肩のあたりに随分筋肉が付
いている様子が良くわかった。普段のスーツ姿では、気が付かないところだ。

 杉野は、力任せにキャブレターを押し込むと、手を止め、
「どういう訳だか、しょっちゅうこんな感じでね」
しゃがんだまま顔を上げ、ニコッと笑顔で答えた。
目次.
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