射陽 - 第二章 悲しいキャッチボール -

 征雄は、袋を開けるのに手こずっていたが、破るように袋を開け、取り出したグローブを
自分の手に嵌め調子を確認する。袋に残ったもう一つのグローブとボールを由希子が取り出
し、自分もグローブを嵌めてみた。
「マー坊。お外でキャッチボールしよっか」
「えへへ・・」頷くでもなく、征雄は笑って見せた。

 ビニールのグローブを付けた母と子は、路地裏に出て、向かい合った。
「かあちゃんは、やったこと無いんだから、思いっきり投げないでよ」
「えへへ」
 そんな言葉を聞き流し、征雄は振りかぶり、母の左手に付けられた赤いグローブめがけて
力一杯投げた。
 山なりのボールはへっぴり腰で構える由希子の頭上を抜け、後方へ転がっていった。

 由希子は、抜けていったボールを拾いに行きながら、
「そんなことすると、女の子にもてないわよ」
そう言って、下手投げで征雄に緩いボールを返す。征雄の剛速球は十球ほど続き、スタミナ
が切れるとコントロール重視に変わった。
目次.
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