射陽 - 第二章 悲しいキャッチボール -
から、征雄のため、店を開くためと、禁煙していたので、タバコを切らしていた。
 まあ、いいか、と、幼稚園はす向かいのタバコ屋で、マイルドセブンを買おうとするが、
とりあえず、一本吸いたいだけなので、二十本入りのタバコは止め、ショートピースを一箱
だけ買った。
 タバコのセロファンを剥がし、商店街の方へ戻って行く。タバコを一本取りだし咥えるが、
ライターも持っておらず、いつも立ち寄る喫茶店にでも入ってマッチを貰おうと、二三歩進
んだところで、「売家」の札に記載されていた連絡先を、控えていないことに気が付き、そ
ば屋の前に戻ってショートピースの中箱に書き写した。

 杉野は、火の点いていないショートピースを咥えたまま、この一体の得意先回りが終わる
と、よく立ち寄り、コーヒーを飲みながら伝票整理を行う純喫茶カルチェ・ラタンに入り、
カウンター席の一番奥に座る。
「いらっしゃいませ」とアルバイトのフーちゃんが水とお手ふきを持ってきた。
 カウンターの中で、雑誌を読んでいたマスターが、
「杉野君、今日は早いじゃん。なんだよ、ニヤニヤして。なんか良いことあったな」
 杉野は、すぐに答えず、カウンターの上に置いてあるマッチを一つ手に取り、咥えたまま
のタバコに火を点けた。カウンターの中に入り洗い物をしているフーちゃんが、
目次.
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