射陽 - 第二章 悲しいキャッチボール -
クランクシャフトを回し、ポイントから火花を飛ばす。
「タイミングが早すぎるんだね」
 杉野は、タイミングライトを使わずに点火タイミングを合わせる方法に驚いた。
「タイミングライトを使わないで出来るとは、はじめて見ました」
「まあ、最後にライトを当てるけどね。タイミングが早すぎると、バックファイアーを起こ
すんだよ。・・・そう、よく勘違いしている人がいるけど、キャブから火を噴くのがバック
ファイアーで、マフラーから火を噴くのがアフターファイアーな」
「はあ・・・・」

 数分間で、点火タイミング諸々の調整が終わった。
 前田は、両切りのタバコに火を付け、一服すると、
「ところで青年。以前、うちに来ているよなあ」
「はい。何年も前ですけど、シールドを買いに来ました」
「あー、そうだ。大雨の日にびしょ濡れになって」
「そうです。よく憶えていましたねえ」
「あのころはオートバイブームで、レースをやっている奴も一杯いてねえ」
「たった数年で随分と変わりましたよね」
目次.
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