射陽 - 第二章 悲しいキャッチボール -
ふらしてきたのをシャキッとしようと、
「マスター。シャキッとするコーヒーください」
「シャキッとするコーヒーか。俺が毎朝飲んでいる浅煎りのコーヒーにしようか」
「はい。それでお願いします」

 浅煎りのコーヒーは効果なく、この日、杉野は店のことで頭がいっぱいになり仕事に身が
入らずに帰社するのであった。

 週末、征雄を由希子の実家に預け、杉野と由希子は売家を見に行った。
 不動産屋に案内され、薄暗い建物に入り、不動産屋が手探りで電灯のスイッチを入ると、
チカチカと数回音を立て店に明かりが灯った。
 テーブルもイスも無く殺風景であったが、カウンターが残され、黒電話が、回転台と共に
乗せられていた。
「まあ、こんな感じで、建物の価値は無いので、取り壊そうとも思ったんですが、ご商売に
よっては使い勝手が良いかも知れないと、とりあえずそのままで、様子を見ているんですが、
どうですかねえ」
「そうねえ」
目次.
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