由希子は征雄のそばに行き、前にしゃがんで顔を覗き込んでみる。 下を向いたまま涙をぬぐっている征雄が、 「かあちゃんも、アメリカに行くんだよ」 「・・・・・じゃあ、英語勉強しないとね」 「ありがと・・かあちゃん・・・」 「さあ、今日はおしまい。またあしたね」 由希子は、征雄の肩に手を乗せ、家の中に入り征雄の涙の訳を考えた。 将来、大リーガーとなって、母と別れ単身渡米することを想像して悲しくなったのか。 母と子のキャッチボールが、嬉しかったのか。 キャッチボールをしていて、漫画に出てきた父と子のキャッチボールのシーンを思い出し、 寂しくなってしまったのか。それとも、グローブを買って貰ったことが嬉しかったのか。 そして、「ありがと・・かあちゃん・・・」 征雄の様々な喜び、悲しみ、切なさ、寂しさ、これらが剛速球となり、涙になったのだろ う。由希子はそう感じた。 陽が傾きかけ、「居酒屋ゆき」にも、のれんが掛けられた。 |
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