気張って後ろ髪を押さえていた由希子は、両手をだらりと降ろし、項垂れた。 そんな二人のやりとりを傍観していた不動産屋が、 「ほかの部屋も見てみましょうか」 由希子が、カウンターに置いてある電話機を見入る。 「この電話は・・・・」 「あっ、それね。前の家主さんが、店で使うなら使ってほしいって、置いていったんですよ。 今は、局からの回線が切れているから使えませんけど、使えるはずですよ。なかなかアン ティークでいいでしょ」 由希子は、受話器を持って耳にかざし、ダイアルを回してみる。 「いや、重いのね。でも、かわいらしいわ」 杉野もカウンターの中に入り、電話機を触ってみる。 「んー。デザインといい、ダイアルの感触といい、たまらんねえ」 「まったりとして、コクがあるんでしょ」 「それだよ。うん。この家を買えなくてもこの電話だけは買おう」 「・・まあ、そう仰らずに、ほかの部屋も見て、御検討ください」 |
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