射陽 - 第二章 悲しいキャッチボール -
 気張って後ろ髪を押さえていた由希子は、両手をだらりと降ろし、項垂れた。

 そんな二人のやりとりを傍観していた不動産屋が、
「ほかの部屋も見てみましょうか」
 由希子が、カウンターに置いてある電話機を見入る。
「この電話は・・・・」
「あっ、それね。前の家主さんが、店で使うなら使ってほしいって、置いていったんですよ。
今は、局からの回線が切れているから使えませんけど、使えるはずですよ。なかなかアン
ティークでいいでしょ」
 由希子は、受話器を持って耳にかざし、ダイアルを回してみる。
「いや、重いのね。でも、かわいらしいわ」
 杉野もカウンターの中に入り、電話機を触ってみる。
「んー。デザインといい、ダイアルの感触といい、たまらんねえ」
「まったりとして、コクがあるんでしょ」
「それだよ。うん。この家を買えなくてもこの電話だけは買おう」
「・・まあ、そう仰らずに、ほかの部屋も見て、御検討ください」

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