射陽 - 第二章 悲しいキャッチボール -
 会社では、あまり話をする機会は無かったが、居酒屋の大将となった元上司の店へ何度も
通っている間に、杉野も居酒屋の大将となって、由希子と二人、悩めるサラリーマンたちの
憩いの場を作ろうと思うのであった。

 その杉野の思いを聞かされた由希子は、日々、弁当屋で働きながら、いつかは自分の店を
持ちたいという夢を持っていたが、酔っぱらいの相手をすることに不安があった。
 しかし、自分の夢と、小さな不安を抱きながら、このサラリーマン受難の時代に自分たち
が求められている。そんな気がして居酒屋の女将になることを決意した。

 いざ、店を出すと決意したものの、資金繰り、メニュー、仕入れ先など、なかなか目処が
立たず、とくに、どこに店を出すか、これが見つからぬまま杉野は三十二才となり、由希子
は二十七才に、更に由希子のお腹の中には、新しい生命が宿っていた。
 出産を間近に控え、夫婦は悩んだ。生まれたばかりの子を親類に預けてでも店を営むこと
が出来るだろうか。その役を由希子の母、登美子がかって出たものの、せめて、幼稚園に通
えるくらいの歳になるまでは、家庭に留まりたいと由希子が望み、杉野は、もうしばらく、
会社に留まることにした。

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