射陽 - 第二章 悲しいキャッチボール -
「なんだか、良い感じだったじゃない」
店員の一人が小声で由希子に言った。
「とりあえず、動くようになったみたいですよ」

 杉野のオートバイは、不安定ながらエンジンが掛かり発進したが、赤信号で停車した途端
エンジンが止まり、しばらくするとエンジンを再始動させて走り去っていった。

 なんとか独身寮まで帰ってきた杉野は、すでに冷めてしまった弁当を平らげ、調子の出な
いオートバイで、数キロ離れた前田モーターに向かった。走り出してしまえば調子良いが、
信号待ちで停車するたび、エンジンの回転が不安定になり、杉野はひやひやしながらも、前
田モーターにたどり着いた。
 前田モーターでは、五十才台後半に入った白髪頭の前田謙二郎が、旧車専門店が根を上げ
た英国車のエンジンを、車体から降ろし、作業台の上で分解していた。
 通りから聞こえる古いオートバイの調子悪そうな音を聞き、店の客だと察しが付いた。

 杉野は、オートバイを駐め、店の中に入っていく。
「こんにちは・・」
目次.
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