射陽 - 第二章 悲しいキャッチボール -

 前田が一言。
「まあ、老人みたいな単車だからな。労ってやんねえと。おう、コーシー二つ入れてくれ」
「私も仲間に入れて貰うから三つ入れ来るわ」

 由希子が奥に行くと前田が小声で言った。
「あいつ、機嫌が良さそうだな・・・青年にホの字か・・・」
 
 この前田の予感は当たり、杉野栄と、前田由希子は二年後に夫婦となった。
 
 大手企業に勤める杉野であったが、勤務先では他の企業同様、再構築、人員整理と厳しい
状況であった。上司の中には、早期退職する者がいたり、各手当の削減で、生活が厳しくな
り鬱病になる者まで現れた。明日は我が身。杉野は、このままではいけないと思いながらも
これといった将来の方向性も見えず、時間だけが流れていった。
 
 ある日、杉野は上司に誘われ、とある居酒屋に行った。そこでは、半年前に早期退職した
上司が、大将として新しい生活をしていた。会社で見ていたその上司の顔とは違い、生き生
きとした表情に、ねじりはちまきが、何とも印象的だった。
目次.
第一章へ
.27.28.29.30.31.32.33.34.35.36.37.38.39.40.41.42.43.44.45.46.47.48.49.50.51.52.53.54.

-36-
次のページへ>