射陽 - 第二章 悲しいキャッチボール -
「かあちゃんも、アメリカまで行くんだよ」
「かあちゃんには、お店があるからなあ・・・・」
母のつれない返事に、征雄は、べそをかきながら振りかぶった。
「かあちゃんも、行くんだ!」
 征雄が投げた剛速球は、由希子の頭上を越え、後ろにそれていった。
「もう・・・」
 由希子は、ボールと追いかけながら思った。カープの黒田は、砲丸投げの選手だった母親
と、キャッチボールをしたことをきっかけに野球選手となった。自分は・・タイトスカート
にサンダル履き。割烹着まで着けている。もう少し動きやすい格好で、相手をしてやるべき
だった。
 征雄があんなに速い球を投げるとは。あまり外で遊んでやらなかったので、気が付かなかっ
たが、もう立派な男の子。あと二年もすれば、運動神経の悪い母親よりも、同級生や、近所
の仲間達と野球をするようになるのだろう。それまでの間、砲丸投げの選手のようにはいか
ないが、征雄の玉を受けてやろう。様々、思うのであった。

 ボールを拾い、振り返り征雄の方を見ると、征雄が右手の袖で涙をぬぐっていた。

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