「かあちゃんも、アメリカまで行くんだよ」 「かあちゃんには、お店があるからなあ・・・・」 母のつれない返事に、征雄は、べそをかきながら振りかぶった。 「かあちゃんも、行くんだ!」 征雄が投げた剛速球は、由希子の頭上を越え、後ろにそれていった。 「もう・・・」 由希子は、ボールと追いかけながら思った。カープの黒田は、砲丸投げの選手だった母親 と、キャッチボールをしたことをきっかけに野球選手となった。自分は・・タイトスカート にサンダル履き。割烹着まで着けている。もう少し動きやすい格好で、相手をしてやるべき だった。 征雄があんなに速い球を投げるとは。あまり外で遊んでやらなかったので、気が付かなかっ たが、もう立派な男の子。あと二年もすれば、運動神経の悪い母親よりも、同級生や、近所 の仲間達と野球をするようになるのだろう。それまでの間、砲丸投げの選手のようにはいか ないが、征雄の玉を受けてやろう。様々、思うのであった。 ボールを拾い、振り返り征雄の方を見ると、征雄が右手の袖で涙をぬぐっていた。 |
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