のこと。いろんなものが頭を錯綜する中、そば屋の前を通りかかった。 ちらっと横目で見て、通り過ぎようとした杉野の目に、そば屋の引き戸の横にか張られた 「売家」の札が入ってきた。杉野は立ち止まり、しばらく「売家」の文字に釘付けになった。 杉野の頭の中を、いろんな事が駆けめぐる。 住まいと店舗が一緒なら、すぐにでも居酒屋をやっていけるのではないか。ここなら駅か らも近く、由希子の母、登美子も頻繁に子守りに来てくれるのではないか。 「めーだーかーの、がっこうはー。かーわーのーなかー」 オルガンの伴奏と共に、店の裏側からこども達の歌声が聞こえてきた。 杉野は路地を入り、店の裏側に行ってみると、そこには幼稚園があった。三年後の征雄が 一緒に歌っている様子を想像する。家のすぐ裏が幼稚園とは、なんと都合の良いことであろ う。更に、由希子と二人店の準備をしていると、裏の幼稚園から園児たちの歌声が聞こえ、 少しだけお兄さん、お姉さん達の歌声を、ゆりかごの中で聞いている征雄の楽しそうな笑顔 が浮かんでくる。これが幸せというやつなんだろう。そう思うのであった。 幸せな空想に浸った杉野は、胸のポケットをからタバコを取り出そうとするが、二日前 |
目次. 第一章へ .27.28.29.30.31.32.33.34.35.36.37.38.39.40.41.42.43.44.45.46.47.48.49.50.51.52.53.54. |
-39-
次のページへ>