返事をしないで、壁の日焼けや痛み具合を見つめ、腕組みをしている杉野に不動産屋が、 「壁なんかは、シャカン(左官)でもクロスでもキレイになりますよ」 由希子は、カウンターの中に入り、店を見渡してみる。 「どう、女将に見える」 どうしたものかと、壁や天井を見ていた杉野が腕組みしたまま、由希子の方へ目をやる。 「ああ、いいねえ。髪の毛をアップにしたら、それっぽいかもね」 後ろ髪を丸めて両手で押さえた由希子が、杉野にニコッと笑顔を送った。 「こう?」 カウンター越しに見せた由希子の笑顔が可愛かった。それが杉野の全てなのであった。 どんなに借金をしようと、どんなに収入が減ろうと、由希子と征雄と、三人家族が、この 家に住み、いつでも一緒にいられることが、何物にも代え難いと感じた。 しばらく、杉野はカウンター越しの由希子をじっとみていたが、 「ああ、いいね」 「それだけ?」 「まったりとしていて、コクがあるよ」 「・・・・・」 |
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