西本は八キログラムに満たない自転車を肩に担ぎ、鉄階段を「カチッ、カチッ」と音を立 てながら二階にある坂本の部屋まで登った。 「コンコン」ドアをノックし 「おう、西本だ。本を持ってきたぞ」 西本がドア越しに声をかけると、まもなくドアが開き坂本が顔を覗かせた。 「おう、寒い中悪いねえ。それにしても、好きだねえ全く」 ドアの隙間から、これでもかというくらいにコーヒーの香りが吹き出して来る。 自転車を担いだまま、西本は中に入り、 「相変わらずこの家はコーヒー臭いな」 「まあな。ここんところ胃の調子が悪いんでエスプレッソにしているから、余計に臭うのか もしれないな」 西本は、自転車を下駄箱にも垂れかけさせドアを閉めた。 「ここに自転車を置かせてもらうよ」 「ああ。高級車を外に出しとくわけにもいかないもんな」 二人は、仕事部屋に入り、それぞれ椅子に腰掛け、西本が出版元から預かった本が数冊入 った袋を坂本に手渡す。 |
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