六畳間中央のお膳には、たくあん、納豆、などの朝食が並べられ、小学三年生の長男、栄
が黙々と納豆をかき混ぜている。そのとなりで一年生の長女、真知子がテレビの人形劇を見 ている、というよりも、ぼんやり眺めている。 いつもなら、ロバくんとジャガ親分のやりとりを食い入るように見ている真知子であった が、この日は少し様子が変わっていた。 やがて、テレビを見ている真知子の目から涙がこぼれ落ちた。 ロバくんが、ジャガ親分にいじめられているのはいつものことであり、その様子を見て、 今まで真知子が涙を流すようなことは無かったのに、なぜ、いつもはしゃいでいる真知子が 黙って涙いているのか、豊は気になって仕方ない。 「まっちゃん。悲しいのかい」 「・・・ん、んん」 真知子は、返事にならない返事をし、更に悲しくなる。その大きな目から、いっぱいになっ た涙がこぼれ落ちた。 豊は、何も言えず、何も出来ず、正面に座って納豆をかき混ぜている栄に目をやる。 「栄、まっちゃんは何が悲しいんだ」 「ん、んん。昨日さあ、母さんが『ゴンぎつね』を読んであげたらさあ・・・」 |
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