「マー坊。ちょっとおいで」 「・・・んん」 「んんだって」そんなことを言いながら、由希子が一枚ずつページをめくり、挿絵のあるペー ジを見ていく。 回転台に乗った電話機の挿絵の入ったページを開いたところで、向かい合ったカウンター 越しから坂本が指さし、 「この電話台の絵は、この店で見たのが参考になったんだ」 「まあ、そうなの。いろんなところを観察なさってるのね」 何気ない由希子の言葉を、坂本は妙に勘ぐってしまい口ごもってしまった。 「ん・・・」 そんなところへ、由希子の懐へ潜り込んできた征雄がカウンターの下から顔を出した。 「あっ、ウチの電話だ」 由希子は、自分の胸元で絵本の挿絵を見ている征雄の耳元まで顔をおろし、 「おじさんが描いたんだって。すごいわね。絵描きの先生だったの」 「すげえ」 「この本、マー坊にくれたのよ。お礼を言いなさい」 |
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