「なんで」「どうして」を繰り返し、やがて声が言葉にならなくなり、泣き出した。
母が本を閉じた後、自分で本を手に取り何度も読み返した。何度も読み返していれば、物 語の内容が変わり、ゴンは死んだのではなく、ただ、寝ているだけだったのではないか。 ゴンぎつねの後に続く他の童話も熱心に読み、その後のゴンのことが書いてあるのではな いか。 そんな真知子の想いは、叶わず、ただ、悲しみを深めてゆくのであった。 この日の朝食は、いつになく静かで、家族全員、頭の中は「ゴンぎつね」一色となった。 豊が、子供たちより一足早く席を立ち、玄関で地下足袋のこはぜを一つ一つはめていると、 「父さん」背中で栄の声がした。 「ん、どうした」 栄が、新聞広告の裏に描いたすやすや眠っているゴンの絵を差し出し、 「これ、作りたいんだけど、なんか材料無い」 豊は、とても上手いとはいえないゴンの絵を手に取り、栄に尋ねた。 「どのくらいの大きさで作るんだい」 「・・・きつねって、犬と同じくらいかなあ。子ぎつねだから、ちょっと小さいのかなあ」 元気のない妹を想い、一生懸命考えたゴンの絵を描いた栄が、困った顔をしているのを見て、 |
目次. 第二章へ .55.56.57.58.59.60.61.62.63.64.65.66.67.68.69.70.71.72.73.74.75. .76.77.78.79.80.81.82.83.84.85.86.87.88.89.90.91.92.93.94.95. |
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