射陽 - 第三章 正義のカミソリシュート -
 少年は布団を腰のあたりまで下げ、上体を起こして、となりで同じ体勢をしている坂本と
目が合い、目をこすりながら言った。
「父さん、おはよう」
「ああ、おはよう」
 坂本は、無意識に返事をしてしまったが、父さんと呼ばれて戸惑った。
『いま、父さんと言われたようだったが』
『あの少年は、居酒屋のマー坊に似ているが、彼の方が一つ二つお兄さんのような』
『まさか、マー坊のお兄さんか。するとここは、居酒屋の女将の家か』
 少年と顔を合わせたまま、坂本はしばらくいろいろなことを考えてみたが、状況が理解で
きず呆然としていた。

 少年は、布団から出て立ち上がり、
「まいにち〜まいにち〜、ボクらはてっぱんの〜」歌いながら部屋を出て行った。
 およげたいやきくんか、あの子は、何であんな歌を知っているんだ。
 
 部屋に取り残された坂本は、およげたいやきくんの続きを口ずさみながら布団をたたみ、
押し入れに放り込む。
目次.
第二章へ
.55.56.57.58.59.60.61.62.63.64.65.66.67.68.69.70.71.72.73.74.75.
.76.77.78.79.80.81.82.83.84.85.86.87.88.89.90.91.92.93.94.95.

-76-
トップページへ