薄暗い部屋のカーテンを開け、ねじ込み式の鍵がかかった木枠の窓を開けると、窓から朝
の空気が入ってくる。 坂本は窓辺に腰掛け、外に目をやる。『いったいここはどこなんだ』最初に目に入ったの は向かいの家のさびたトタン屋根であった。その上の窓の軒先に円形の物干しがつるされ、 作業着が微風に揺らされている。 建物の角あたりに立つ木製の電柱が目に入り、視線を下げていくと未舗装の荒れた路地が 見えた。 2サイクルの軽自動車が、路地を揺られながら走り去ってゆくのを上から見下ろし、 『また、妙な夢の世界に入ってしまったのか・・ほんの数秒前に目覚めたばかりだと思って いたんだが・・・お父さんと呼ばれていた。・・家族がいるのか。夢の世界でも何でもいい。 この際、楽しもう』どこかで見たような、なにか懐かしい気さえする外の風景を見ていた。 無意識に、たばこ盆に手をやり、チェリーを一本取り出してマッチで火を付ける。 『ん、たばこはしばらく前にやめていたはずだったが・・』 部屋の外から、階段を上ってくるかわいらしい足音が聞こえた。 足音の主は、ふすまを開け「父さん、ごはんだよ」 |
目次. 第二章へ .55.56.57.58.59.60.61.62.63.64.65.66.67.68.69.70.71.72.73.74.75. .76.77.78.79.80.81.82.83.84.85.86.87.88.89.90.91.92.93.94.95. |
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