「ありがと」 「おじさんは、絵を描いただけなんだけど、お話もなかなかおもしろいから読んでみて」 「うん」 征雄は本を受け取り、カウンターを潜り抜け坂本の横に座って本を開いた。 カウンターを挟んだ向かいから由希子が、 「そこ。目次の隅に坂本昭二って先生のお名前が書いてあるでしょ」 「おお」 「先生じゃ無いんだけどね。おじさんは」 「センセイってあだなのおじさんよ」 征雄は、隣に座っている坂本を、『センセイ』と呼ぶべきか『おじさん』と呼ぶべきか、 判断が付かないまま『電話機のクロちゃん』を読み始めた。 「さあ、隣で坊やが読書しているんだ。私はおとなしく酒でもいただくかな」 すると、由希子が両手に一本ずつ徳利を持ち、坂本に見せる。 「このくらいはサービスしなくちゃね」「お燗でいいかしら」 「いやあ、わるいねえ。そうしてもらおう」 由希子は、酌をすると坂本の正面から離れ、注文を受けた酒の肴の支度を始めた。 |
目次. 第二章へ .55.56.57.58.59.60.61.62.63.64.65.66.67.68.69.70.71.72.73.74.75. .76.77.78.79.80.81.82.83.84.85.86.87.88.89.90.91.92.93.94.95. |
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