射陽 - 第三章 正義のカミソリシュート -

「そういう100グラム1000円くらいのいい腿肉がついていりゃあな。ツイギーか、ル
パン三世か、坂本昭二かって感じだもんなあ」

 デミタスカップに抽出されたエスプレッソを西本が受け取り、
「いきなりロードレーサーに乗れっていうわけじゃないから、ちょっとした自転車でも買っ
てみたらいいんじゃないの。健康じゃないと、また個展ができないぞ」
 仕事以外の作品を多く残している坂本を、西本はうらやましく思い、坂本は数多く仕事を
こなし家族を養っている西本に、感心の念を抱くのであった。

 二人の中年男は、しばらくの間、隣国の将軍様の話で盛り上がったが、西本が四杯目のエ
スプレッソを飲み終えたところで、明るいうちに帰ると、自慢の自転車を肩に担いで鉄階段
を降り、坂本に送り出されてアパートを後にした。

 坂本は、ジャケットを羽織って、背中を丸めながら、颯爽と走り去っていく西本の後ろ姿
を見つめていた。強い前傾姿勢に、西本の背筋が西日に浮き彫りにされ、同い歳の男が眩し
く映った。
目次.
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.55.56.57.58.59.60.61.62.63.64.65.66.67.68.69.70.71.72.73.74.75.
.76.77.78.79.80.81.82.83.84.85.86.87.88.89.90.91.92.93.94.95.

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