射陽 - 第三章 正義のカミソリシュート -
 胃の痛みから解放されたと思っていたら、連日、頭痛に悩まされ、なぜか不調の時には、
遊びほうけて自己破産した友人や、カルト集団に身を投じた知人など『ダメ男』たちの顔ば
かり思い浮かべてしまう。
 そんな時は、自分も『ダメ』になっている証拠だと自分に言い聞かせる日々が続いていた
が、『元気オヤジ』西本の姿を見ていて何かが吹っ切れ、坂本は久々に前向きな気分になっ
た。

 原稿も形になり、一段落付いた坂本は、久々に近所の酒屋でウイスキーでも買いに行こう
と思い、一度自分の部屋に戻って財布を手に取ったが、机の上で届いたばかりの『電話機の
クロちゃん』が、向かいの家で物干しに吊されている洗濯物にゆらゆらと揺れながら窓から
入ってくる西日に照らされ、輝いているのを見て、居酒屋『ゆき』で見た妙な出来事を思い
出した。
 あの夢は、いや、夢では無かったんじゃないか。だとすれば、いったい何だったのか。

 酒に酔っていたこともあり、その後、深く考えていなかったが、単に、夢を見ていたとい
う感覚ではなかった。第一、自分ではない人物になっていたのだ。
 何という氏名だったか。勤め先のオートバイ屋は、何という屋号だったか。しばらく思い
目次.
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.55.56.57.58.59.60.61.62.63.64.65.66.67.68.69.70.71.72.73.74.75.
.76.77.78.79.80.81.82.83.84.85.86.87.88.89.90.91.92.93.94.95.

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