射陽 - 第三章 正義のカミソリシュート -

 坂本は「はあ」と気のない返事をしてベンチシートに腰を滑らせ助手席のドアを開け、老
人に従ってシャッター扉の中に向かった。

「よっ」老人がかけ声をかけてシャッター扉を押し上げる。
 中はガレージになっていて、黒光りした流線型の車が見えた。よく見るとその車には屋根
が無く、ドアも無い。一人乗りのレーシングカーのような形だった。
 車に見とれている坂本に、老人が語りかける。
「お前さん、こういうのが欲しかったんだろ」
「・・・・・」
「お前さんにやろう。ただし、黒という色がわからなくなるがな」
「えっ」

 気が付くと、坂本は車に乗り込みガレージを飛び出していた。

 車は通りへ出る。道ばたにピンクのサマーセーターを着た小柄な若い女が立っていた。
 よく見ると、その女は坂本が出入りしている出版社の編集室で、いつも机いっぱいに並ん
だ資料を見ながら、パソコンに向かってマシンガンのようにタイピングしている武田望だった。
目次.
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.55.56.57.58.59.60.61.62.63.64.65.66.67.68.69.70.71.72.73.74.75.
.76.77.78.79.80.81.82.83.84.85.86.87.88.89.90.91.92.93.94.95.

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