射陽 - 第三章 正義のカミソリシュート -
「ゴンぎつね。ああ、鉄砲で撃たれちゃうって話か」

 真知子は忘れようとしていた悲劇、理不尽な死を遂げたゴンぎつねの無念、自身をここま
で辛く、悲しい思いにさせた、まだ銃口から煙の出ている火縄銃を手から落としたまま、立
ちつくしている兵十のすぐそばで、息絶えたゴンの挿絵を鮮明に頭に浮かべてしまう。


 悲しみが頂点に達した真知子は、大声を出して泣き出した。

 豊は、父としてあまりにも無神経だったと反省する。

 そこへ、豊の妻、栄と真知子の母である、徹子が温めた味噌汁を運んでくる。
「あら、まっちゃん、ゴンのこと、思い出しちゃったの」


 数日前のことである。真知子の学級では、一年生から読書をする習慣を付けるため、全員
で図書室にゆき、各々気に入った本を自宅に持ち帰り感想文を書くことになった。
 それから丸二日間。せっかく借りてきた本を、全く読もうとしない真知子に、母、徹子は、
真知子の横に座り童話短編集の中から、ゴンぎつねを読んでやったのだった。
 母が朗読する物語を、静かに聞き入っていた真知子であったが、お話しが終わると、

目次.
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.55.56.57.58.59.60.61.62.63.64.65.66.67.68.69.70.71.72.73.74.75.
.76.77.78.79.80.81.82.83.84.85.86.87.88.89.90.91.92.93.94.95.

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