構ってもらえる相手のいなくなった坂本は、二杯目以降を手酌ですすめながら、となりに 座ってじっと本を読んでいるというよりも、眺めている征雄の様子に目をやっていた。 他に客もなく、静かに時が流れているこの店に、のれんの切れ目から西日が射してきた。 西日は、征雄がもたれかかっている壁でゆらゆらと、のれんの陰に揺らされている。 征雄に向けられていた坂本の視線は、ゆらゆらと揺れている西日に移り、坂本は、またし ても西日の催眠術にかかる。その心地よさから抜け出そうともせず、お銚子一本目にしてウ トウト。やがて夢の中に入ってゆくのであった。 灰色の空が藍色に染まりかかっている。 坂本は、コラムシフトの乗用車でアスファルトの傷んだ殺風景な道をのんびり走っている。 三角窓を半開きにしているが風が入ってくるわけでもなく、ラジオから音が聞こえること も無く、ただ、退屈に車を走らせ、坂の頂上付近の赤信号で停止。フロントガラスから坂の 向こう側が見えない。 |
目次. 第二章へ .55.56.57.58.59.60.61.62.63.64.65.66.67.68.69.70.71.72.73.74.75. .76.77.78.79.80.81.82.83.84.85.86.87.88.89.90.91.92.93.94.95. |
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