射陽 - 第三章 正義のカミソリシュート -
 イタリア製の自転車とドイツ製の自動車の追い掛けっこは数百メートル続き、信号待ちで
止まったドイツ車の運転席の窓越しに、西本がドライバーに怒鳴りつけようとしたが、西本
の心拍数は百九十を超え、声が声にならず、窓の向こうの中年主婦と思われる運転手は、車
の横で怒鳴っている西本と目を合わせること無く、信号が変わると知らんぷりして車を発進
させた。
 
 坂本の乗った電車は、数分で横浜の中心部に着く。
 坂本は、ビジネスマンや観光客が行き交う駅前を抜け、国道を横断して小路を進む。
 しばらく歩くと、どこからともなく醤油だれの香りが漂ってくる。
 坂本は、その場に立ち止まり目をつむって深呼吸するようにその香りを吸い込んだ。
 目を開けた途端、携帯電話を操作しながら自転車を漕いでいる若者と接触しそうになり
ヒヤッとした。
 この辺だったか。居酒屋『ゆき』がどの辺だったのかあやふやだったが、店の前でほうき
を持って野球の素振りをしている男の子の姿を見つけ、そこが居酒屋『ゆき』であることが
わかった。
 
 居酒屋『ゆき』の女将、杉野由希子の一人息子、征雄は五十円の報酬を受けるため、店先
目次.
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.55.56.57.58.59.60.61.62.63.64.65.66.67.68.69.70.71.72.73.74.75.
.76.77.78.79.80.81.82.83.84.85.86.87.88.89.90.91.92.93.94.95.

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