の掃き掃除をしていたが、カウンター越しに母の姿が見えなくなった途端、将来自分がなる であろう、アメリカ大リーグの主力選手として、打席に入った空想に耽り、ほうきでフルス イングした。 打球はフロリダの青く、澄み切った空に大きな弧を描き、駅の方から歩いてきた白髪頭の おじさんが左手を上に大きく伸ばしたが、見えないボールは男の頭上遙か高く、レフトスタ ンドを越え場外へ消えていった。 坂本が手をかざし、消えつつある見えない打球の行方を見送りながら、 「でかいホームランだ」そう言うと、征雄はダイヤモンドを一周し、店の前で両手を出して 待ちかまえていた坂本とハイタッチ。二人は肩を抱き合って店に入っていった。 「あら、いらっしゃい」由希子が店に入ってきた坂本に言った後、征雄の方に目を移し、 「マー坊。一流選手はバットを置いたままベンチに帰って来ないのよ」 「あはははぁ」いつものように、カウンターの隅に陣取ろうとした征雄は、道ばたに投げ捨 てたままのほうきとちりとりを裏に片付けにいった。 カウンターの真ん中あたりに座った坂本に由希子が、 「一度みえたわよね。看板屋さんでしたっけ」 坂本は、ニヤッとして 「ああ、そうそう。看板を持ってきたんだ」 |
目次. 第二章へ .55.56.57.58.59.60.61.62.63.64.65.66.67.68.69.70.71.72.73.74.75. .76.77.78.79.80.81.82.83.84.85.86.87.88.89.90.91.92.93.94.95. |
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